わらしべ長者


ピークをすぎたとはいえ、まだまだ残暑の厳しい9月の頭。そんな時期にも関わらず、全身をもこもこの防寒着で包んだポポは涼しい顔でスマブラ寮の庭で寝転んでいた。
「あ〜、あの雲おいしそう……」
誰に話しかけるでもなく間抜けな言葉をつぶやくポポ。いつもとなりで問いかけに答えてくれるナナは、今日はショッピングに出かけていた。そのことに寂しさを感じていたポポは、少し眠って時間をつぶそうかなどと考えていた、

その矢先、ポポはいきなり飛び起きる。突然、周囲の気温が一気に上がったような感じがしたのだ。先ほどまで汗などほとんどかいていなかったのに、今は顔から汗が滴り落ち、頭もボーっと少しする。ほとんど味わったことのない暑いという感覚におびえたポポは、思わず辺りを見回す。と、大きな赤い恐竜のような生き物がぐったりと横たわっているのが目に入った。かえんポケモン、リザードンだ。急な熱さの自分の体の異変などではなく、彼の炎だったことにポポは胸をなでおろす。
「リザードンさん、こんにちは、何してるの?」
「ん〜……」
「ね、どうしたの、リザードンさん?大丈夫?」
「ん、ああ……悪い、お前、名前なんだっけ?」
「あ、僕はポポだよ。よろしくね、リザードンさん」
「ああ……そうだ、いつもお前と一緒にいる、ピンク色の子はどした?」
「ナナちゃんは今ゼルダさんとお買物に行ってるよ。名前、覚えておいてあげてね」
「んー……」
自分はともかく相棒の名前を覚えてもらっていなかったことにポポは少しむっとしたが、すぐにその気持ちも消えた。リザードンの様子がおかしいのだ。普段煌々と燃えている尻尾の炎にはサイズが普段の半分程度にまで縮まっており、体もどことなく黒ずんでいる。体に何らかの異変が起きていることは、誰の目にも明らかだった。
「それよりリザードンさん、元気ないみたいだけど、どしたの?お腹すいたの?それとも寂しいの?」
「暑い……お前、そんなカッコで暑くないのか?」
ポポは拍子抜けした。まさか、年がら年中鋼鉄を焼き尽くす炎を吐いているリザードンが自分より暑さに弱いとは。
「え、あ、うん、僕もナナちゃんもすごく寒がりだからね、これくらいの暑さはぜんぜん大丈夫だよ」
「そうなのか、いいな、お前」
「そんなことより、大丈夫?ビニールプールとか作ってあげようか?」
「いや……俺さ、尻尾についてる火が消えちゃうと死んじゃうんだよ、だからだめなんだ」
「あ、そっか……あ、じゃあさ、大きな氷の塊出してあげるよ、それなら抱いてても大丈夫でしょ?」
「ん、悪いな、そうしてくれると助かる」
「おっけー、まかせて!」
ポポは手をえいやと伸ばし、何もない手の平から氷を作り出す。リザードンはその様子を間近でしげしげと見ていたが、やはりなぜ手から氷が出せるのかはわからなかった。まあ、リザードンが何もないところから炎を吐き出すのだってポポから見れば十分におかしいのだが、いわゆる十人十色ってやつだろう。
「どう、涼しい?」
「おー、いいなーこれ、ありがとな」
「いーえ、どういたしまして」
リザードンの尻尾の炎が元に戻りつつあるのを見て、ポポはにっこりと微笑む。リザードンも笑顔を返すと、ポポに羽の裏から取り出した赤っぽい玉のようなものを差し出した。
「ん、なにそれ?」
「氷のお礼だ、やるよ」
「ありがと……でもなにこれ?食べ物?」
「そうだ。基本的にはポケモン専用の食べ物だけど、人間が食べてもまあ害はないから大丈夫だ」
「ふ〜ん、ありがと、後で食べるよ」
リザードンと別れたポポは手で木の実をもてあそびながら、のんびりと歩を進める。木の実はあまりおいしそうに見えないし、匂いも特にない。それでもリザードンの好意を無碍にするのは悪いと思って、恐る恐る口に近づける。
「ポポ君、何してるの?」
「え?」
突然声をかけられてあわてたポポは、手に持っていた木の実を落とした。あわてて拾いなおそうとしたが、声を掛けてきたヨッシーに先に拾われた。
「あ、ありがと」
「これなあに?おいしそうだねー」
「あー、うん、リザードンさんにもらったんだ。僕はあんまり食べる気しないし、欲しいのなら食べて良いよ」
「いいの〜?ありがとう、いただきまーす〜」
無邪気に木の実を食べるヨッシーに、ポポの頬も思わず緩む。年上で性別もわからないような人(人ではないが)にかわいいという感情を抱く自分を不思議に思ったが、それでもポポはヨッシーをかわいいと思った。
「おいしかった?」
「ありがとう、おいしかったよ〜」
「ホントに?、そんなにおいしいなら僕も食べたかった……」
膨れっ面をして怒って見せるポポ。もちろん本当に怒っているわけではなく、じゃれているだけだ。それがわかっているから、ヨッシーも笑顔で受け止める。
「ごめんね〜、おわびにこれをあげるよ〜」
「あ、ありがと、何これ?」
ヨッシーが差し出したのはポポの体もくるりと包みきれそうな大きな布着れ。これでお昼寝でもしていろ、という意味なのかと、ポポは首をかしげる。
「それはマントだよ、背中に乗っけて走ると空が飛べるようになるんだ」
「あ、そうなんだ?ありがと、後でやってみるよ」

ポポはマントをひらひらとなびかせて、少し走っては止め、少し走っては止めを繰り返していた。せっかくの機会ということもあり、空を飛んでみようと思っているようだが、一人で空を飛ぶのはやはり経験のないポポには怖いようだ。
「うう、どうしよ、やっぱ怖いよ……」
一人でつぶやいて、あたりを見渡すと、地面にへたり込んでいるリュカと、その近くでおろおろしているネスを見つけた。
(あ、ネスたちだ。お空を飛ぶのは今度にして、今はみんなあそぼっと。別に空を飛ぶのなんか怖くないけど、友達と遊ぶほうが楽しいもんね)
一人心の中で誰にも聞かれていない言い訳をしながら、ポポは二人に近寄る。
「あ、ポポ……」
「どしたの、二人とも?何してるの?」
「ちょっと、ネスさんと野球してたら、転んじゃって、下にあった石で脚を切っちゃって……」
リュカが血のにじんだすねを指差す。血を見るのが苦手なポポは二人にそれを悟られないように一歩身を引き僅かに視線をそらす。まあ、二人ともポポが血が苦手なことくらいとっくに気が付いているのだが、その辺は子供の浅知恵といえよう。本人は気づかれていないと思っているのだから、ほっといてあげるのが大人というものだ。
「わぁ、血が出てるじゃん、大丈夫?」
「あ、うん、ぜんぜん大丈っ……いたた」
「大丈夫じゃないじゃん……、あ、そうだ、この布使って足縛ったらどう?」
「え、いいの?」
「いいよ、別に大事じゃものじゃないから、ホラ、早く」
ポポはマントを押し付けるようにネスに手渡す。これでもうお空は飛べないね、残念だなあとポポは心の中でつぶやいた。
「あ、ありがと、いたた」
「うわゎ……いちおうドクターに見てもらったほうがいいんじゃない?」
「そだね、ちょっと見せてくるよ」
「ん、早く行ってらっしゃい」
速くマントから離れたかったポポは立ち去ろうとするが、ネスがそれを呼び止めた。無視するわけにもいかずに足を止めると、ネスは飴玉を手渡した。
「なにこれ?」
「貰った布のお礼だよ、おいしく食べてね」
「いいの?わーい、ありがと」
ポポはネスにもらった飴玉を手に取り、ふと昔母親に読んでもらった昔話を思い出した。わらしか持たない貧乏な男が物々交換を重ねるうちに、いつの間にか豪華な屋敷を手に入れるという話だ。あの話を自分も真似てみようと、ポポは飴玉を欲しがっている人を探し始めた。

「飴玉を欲しがっている人」はなかなか見つからなかったが、寮の庭で下段の世話をしているルイージに呼び止められた。
「あ、ちょっと、ポポ君、その飴玉くれないかな……」
ルイージの聞きなれないしゃがれ声に驚き、ポポは「あれ、ルイージさん、声おかしくない?」と尋ねる。
「ああ、ちょっと風邪引いちゃってさ、声が出にくくて……」
「そっか、それならあげるよ、はい、どうぞ」
「ありがと、ポポ君、助かるよ」
「おいしい?」
「うん、おいしい」
ポポは「お礼を欲しがる自分はいけない子だ」という意識と「早くお礼が欲しい」という欲望にやきもきしながら、ルイージを見つめる。ルイージもポポの考えをなんとなく読み取ったらしく、ポポにお礼を渡した。



ポポは自分の部屋で先ほどもらった「ルイージが丹精こめて育てた綺麗な花」を見つめる。正直なところこれを喜びそうな人で、いいものを持っていそうな人は思いつかない。ポポがうんうんうなっていると、突然部屋のドアがノックされた。「どうぞ」と返事すると、ナナとゼルダが手をつなぎながら入ってきた。
「ポポ君、ただいま」
「あ、ナナちゃん、お帰り、楽しかった?」
「うん、楽しかったよ」
「そっか、良かったね……それなあに?」
ナナの手には手のひらより少し大きいくらいのコンビニの袋が握られていた。
「あ、これ?ゼルダさんに買ってもらったおやつだよ。ありがとうございました、ゼルダさん」
「いいえ、どういたしまして。仲良く半分こするのよ?」
「うん、わかった、ありがと」
「ありがと、ゼルダさん」
二人は丁寧に頭を下げ、部屋から出て行くゼルダを見送る。
「ところでポポ君、それなに?」
「あ、これ、ルイージさんにもらった鉢植えだよ。僕は良くわからないから、欲しかったらナナちゃんにあげるけど……」
ここまで言った後でポポははっとする。この鉢植えは、いろんな人と交換を重ねていくうちにいつか豪華なお屋敷に化けるかもしれないものなのに……。他人から見ればひどい好都合な妄想だが、ポポは落胆する。
「いいの?ありがと、綺麗だね、私、大事にするよ」
しかし、そんな気持ちは一瞬で吹き飛ぶ。豪華なお屋敷なんかよりよっぽど嬉しい、ナナの笑顔が見られたのだから。

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