彼女は僕の手の中


いつもよりちょっと、ほんのちょっとだけはやく目がさめたポポ。眠たい目を通して窓の外を見ると、秋風がそよそよと庭の木の枝を穏やかに揺らしていた。た まには二人きりで朝の散歩というのもいいかな、と思ったポポは、すやすや寝ている彼女に悪いなと思いながらも、布団の中で寝息を立てているナナの肩を軽く 揺り動かした。
ポポ「おはよっ!朝だよ、ナナちゃん、起ーきて!」
ナナ「うう………………」
ナナが目を閉じたまま苦しそうに声をあげる。怖い夢でも見てるのかな、と思ったポポが、彼女のほっぺをやさしくぺんぺんと叩くと、ようやくうっすらと目を開けた。
ナナ「うん…………ん……おはよ………」
ナナはそう答えたが、彼女は苦しそうに体を布団に沈めたまま動こうとしなかった。気分でも悪いのかな、と心配になったポポは、彼女の手ぎゅっとを握ると、ナナの顔を覗き込むように呼びかけた。
ポポ「どうしたの?あの…気分でも悪いの………?」
ナナ「…………………」
ポポ「黙ってちゃわかんないよ?…あ、もしかして……またおねしょ?」
ナナ「ち、違うよぉ…またとか言わないでよ……気にしてるのにぃ…」
ポポ「あ、ご、ごめん!あの…それでどうしたの?まだ眠かった?」
ナナ「違うの……体が…動かないの…」
えも言われぬ不安に襲われているナナが、若干震えた声で言った。
ポポ「体が…動かない?全く?」
ナナ「うん…」
ポポが信じられない、といったように大きい目をぱちくりさせる。
ポポ「ホントに?なんだろ……まさかおかしな病気とか……と、とりあえずお医者さんを呼んでこなきゃ…!」
ポポがそういってドアのほうに駆け出し、ノブに手をかけた瞬間、ドアが突然開いた。…ポポは内開きのドアと思いっきりキスをした。
ポポ「ぶべっ!」
キノピオ「あ、す、すいません!大丈夫ですか!?」
ワドルディ「ごめんなさ〜い」
ドアの隙間から顔を出したワドルディとキノピオが、あわてて彼のもとに駆け寄った。ポポはドアにぶつかって少し赤くなった鼻のあたりを押さえながら言った。
ポポ「あ、いたた…僕はだいじょうぶ……けど、それどこじゃないんだ…」
キノピオ「どうかしました?」
ポポ「じ、実はかくかくしかじかで……」
キノピオ「はあ…」
ポポ「ナナちゃんは大丈夫なの?助かるの?死んじゃわないよね!ねえ!?ねえ、どうなの、ねえ!」
キノピオ「お、落ち着いてください、苦しいです…」
キノピオが苦しそうにかすれた声を張り上げる。ポポははっとして、いつのまにか掴んでいたキノピオの襟から手を離した。
ポポ「あ、ごめんなさい!つい、その…ごめん…」
キノピオ「ごへっ……ごふっ…うふっ」
むせこむキノピオとひょこひょこ頭を下げるポポの横で、ワドルディが「あ」と大きな声を上げた。首の動かないナナを除いた二人が彼の方を振り返った。
ポポ「どうしたの?」
ワドルディ「あくまで推測なんですけど、たぶんナナさんはかなしばりにあってるんだと思いますぅ」
ポポ「かなしばり?なんですかそれ?」
ワドルディ「えっと…確か脳は起きているけど体はまだ眠っている状態のことだったと思います、多分…そうだったよねぇ?」
キノピオ「ええ…あ、そうか、金縛りか…なるほど…」
ポポ「かなしばりかあ、聞いたことないなあ…そうだ、それよりナナちゃんは大丈夫なの?」
キノピオ「はい、暫くすればいつもみたいに動くようになるので全然心配しなくて大丈夫ですよ、全然深刻な病気とかでもないですし」
ポポ「そうなの……よかったあ…ナナちゃんが無事で…」
ポポはそういうと、心底安心したのか布団の上にぺちゃんと座り込んでしまった。
ナナ「やだなあ、もう、オーバーなんだから………」
キノピオ「それで……そろそろ朝ごはんなんですけど……そのことをお聞きするために伺ったんですけど……」
ポポ「あ、そうか、もうそんな時間か……」
ナナ「ポポ君、先に食べてくれば?私はあとでも…」
ポポ「…いや、心配だからここに残るよ」
ポポはそういうと、彼女の横にごろりと転がって、彼女の不安を取り除くように微笑んでみせた。
ポポ「というわけだから、僕らのことは気にしないでごはんにしてきて」
キノピオ「そうですか…残念だなあ」
ワドルディ「わっかりました〜、それじゃあ失礼しま〜す、さ、行きましょ!」
ワドルディはそういうと、まだ名残り惜しそうなキノピオの手をぐいぐい引っ張って部屋を出ていった。
ポポ「元気な人だね」
ナナ「うん……ねえ…」
ポポ「んー?」
ナナ「ありがとう、一緒に残ってくれて…本当は少し怖かったの…」
ポポ「大丈夫だよ、一緒にいれば怖くないから…ね?」
ナナ「…手、握ってくれる?」
ポポ「いいよ、ほら…」
ポポはそういうと、ナナの手袋をはずし、手を直接握った。何か不安なことが起こると、二人はいつも自身の持つ熱によってお互いの存在を確認しているのだ。
ナナ「ありがとう……手、あったかいね」
ポポ「ナナちゃんの手は冷たいね…冷え性なのかな?」
ナナ「うん…」
ポポ「僕があっためてあげるね」
ポポはそういうと、ナナの手をとってきゅっきゅと揉みはじめた。しばらくすると氷のように冷たかった彼女の手が温かみを帯び始め、かすかに湿り気を持った。
ナナ「ありがとう……」


5分後…
ポポ「でさあ、それでヨッシーさんったら急に静かになっちゃって、何かと思ったら寝ちゃってたんだよ…」
ナナ「ふふふ…ヨッシーさんらしいね………」
ポポ「だよねー」


さらに5分後……
ポポ「ねえ、髪型変えたよね?」
ナナ「あ…分かった?嬉しい…似合ってるかな?」
ポポ「もちろん!前のもよかったけど今回のもかわいいよ」
ナナ「あ、ありがと……」


それからさらに5分後……
ポポ「ねえ…まだ動かない?」
ナナ「うん…」
ポポ「ホントに動かないの?そんな事ってあるんだね…信じられないや」
ナナ「私も信じられないよ…でもホントに動かないんだもの…」
彼女がそういうと、ポポは急に視線を逸らして、何かぶつぶつといい始めた。
ナナ「どうしたの……?」
ポポ「って事はさ…」
ナナ「うん?」
ポポ「今、僕がナナちゃんにどんなことをしようとナナちゃんは一切抵抗できないわけだよね」
ナナ「え…?ま、まあそうかもしれないけど………それがなに?」
ポポがいつもと違う、どこかおかしな目つきで彼女の顔を見つめてきたので、不安になったナナは思わず彼の顔から目を逸らした。
ポポ「ねぇ…僕のこと好き?」
ナナ「え、な、なによ、突然…」
ポポ「キライなの?」
ナナ「あ、ああ…そ、それはもちろん…好き………好きだけど…」
ポポ「なら………お互いに好きあってるんだし………他の人の前じゃ恥ずかしくて出来ないことしてもだいじょぶだよね……?」
ポポがそういうと、ナナのお腹を服の上からするすると右手で撫でながら、彼女の顔に自分の顔をずいっと近づけた。ナナは思わず目をつむった。
ナナ「あっ、やあっ…くすぐったい…」
ポポ「いいでしょ?ね?僕らの仲の良さの証にもなるし」
ナナ「で、でも、私たちはまだ………」
ポポ「そんな冷たいこと言わないでよ、もう僕、我慢できないよ…」
ナナ「うっ……」
…ポポはそういってお尻を僅かに浮かすと……ぷぱー、っと乾いたおならをひねりだした。
ナナ「え?おなら…?」
ポポ「ははは、ごめんごめん、ちょっとお腹の調子が悪くてさ…ごめんね?」
ナナ「ううん、よかった、そういう事で…」
ポポ「そういう事…?」
ナナ「あ、な、なんでもないよ!」
ポポ「………あー!まさかナナちゃんなにかエッチなこと考えてたんじゃないのー?子供のくせしてやらしー!」
ナナ「ち、違う、よぉ…そんな事考えてないもん………」
ポポ「そうなの?でも顔が真っ赤っかだよお?」
ポポが意地悪っぽい目つきで彼女の顔を覗き込む。
ナナ「………いじわる」
ナナは恥ずかしさで真っ赤になりながら言った。本当なら頭から布団でもかぶって隠れてしまいのだが、今はそれもできない。ポポ「あはは、ごめんごめん、そんな怒んないでよ〜、ほら、汗拭いて」
ナナ「あうう………」
ポポ「でさ……どう?そろそろ治った?」
ナナ「…まだ、駄目みたい…」
ポポ「そっか〜、こんだけ汗かいたらよくなるかもしれないと思ったのに…………そうだ!もう一度寝ちゃえば治るんじゃない?」
ナナ「そうかな?なんとなくそんな気もするけど……」
ポポ「上手くいくかわかんないけどさ、とりあえずやってみようよ、ね?」
ナナ「うん……でもどうやって?そんな簡単には…」
ポポ「僕についてきてくれれば大丈夫だから……」
ナナ「?」
ポポ「羊が一匹、羊が二匹…ほら、続けて」
ナナ「あ、うん…羊が三匹、羊が四匹…」
ポポ「五匹、六匹…」
ナナ「七匹、八匹…」
ポポ「9、10、11、12…13…
ナナ「14、15、16…17…18…


………………………ん?ここは……いつもの部屋か………あれ?もう10時?確か今日は7時ごろ目覚めたはずなのに……あれ?ひょっとして…
ポポ「……!やば!僕まで寝ちゃった!?ナナちゃん、おきて!」
ナナの体を揺さぶって呼びかける。
ナナ「んん……」
ナナはポポに抱き起こされると、眠たそうに目をこすった。……目をこすった?
ポポ「ああっ!ナナちゃん!動いてる!動いてるよ!」
ナナ「…!ホントだ!動くよ、ほらほら!」
ポポに向けて手をひらひらと動かすナナ。
ポポ「やったあ!よかったね!」
ナナ「うん!」
ポポ「さ、ちょっと遅れたけどご飯だ!一緒に食べよ!」
ナナ「はーい!」



彼女とお散歩はできなかったけど、たまにはこんなどきどきがあっても悪くないかな……なんて事を考えながら、ポポは彼女の手を引っ張って食堂へと向かった。彼女の手を握ってない方の手―右手をぱくぱくさせながら。

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