大人になりたい子供と大人


夜の11時。多くの者が寝る準備を始める、もしくは既に眠りについているこの時間帯のスマブラ寮内に、ひとつだけ煌々と明かりが着いたままの部屋があった。

「ちゃんと肩までつかるのよ?」
「はい……」

スマブラ寮の女子風呂。もとよりスマブラメンバーは女性が少ないこともあり、男子風呂と比べれば普段はしんとしていることも多いのだが、今日はたまたま同じ時間に入浴したナナとサムスの会話が流れていた。ナナはサムスに髪の手入れの仕方を教えてもらったり、体を洗って貰ったりしたのがうれしかったのか、珍しく浮かれ気味に鼻歌を歌っている。サムスはそんなナナのしぐさを見て、ふふふと笑っている。

「んふっふ〜」
「あらあら、楽しそうね」
「はい!」

笑顔で答えるナナだったが、次の瞬間小さく「あっ」と漏らし、考え込むようにしてうつむいてしまった。サムスはそんなナナの小さな肩に手を置き、「どうしたの」とやさしく尋ねる。ナナはいったんなんでもないです、とごまかそうとしたが、つばを飲み込むと思い直したかのようにサムスのほうに向き直って口を開いた。

「あの、サムスさん、前から聞きたかったことがあるんですけど……いいですか?」
「ん、なにかしら?」
「あのー……その、えっと……どうやったら、早く大人になれるんですか?」
「ん?大人?」
「はい」
思わぬ質問に目を丸くするサムス。しかしナナの瞳の真剣さに押され、サムスはすぐに姿勢を正した。
「どうなんですか?」
「え、うーん、急に聞かれてもねえ……っていうか、どうしてそんなこと聞くのかしら?」
「私、早く大人になりたいんです……だけど、ピーチさんやゼルダさんに聞いても、よくわからないっていうから……サムスさんなら、知ってるかなと思って」
「あらー、そうなの……あなたは早く大人になりたいのかしら?」
「うん……」
「どうして?」
「え、だって、大人は何しても自由だし、背も高いし、その、胸だって大きいし、買いたいもの買えるし、他にもいろいろ……」
「そっか……そうね、うん」
ナナの言葉にサムスは首肯する。たしかに大人は子供と比べて一見自由に見える。子供よりは間違いなくお金だって持っているし、お酒だって飲めるしタバコだって吸える。車の運転もできる。しかしナナは1つ、気づきにくいけれどもとても大事なことを見落としている。そのことに気がついているサムスは、諭すような口調で続けた。
「でも、子供にしかないものだってあるわよ?お金や自由なんてものより、もっと価値のあるものがね」
「?」
ナナは黙って首をかしげる。この人は何をいっているんだろう、という表情で。サムスは一呼吸置き、ぽつりと言った。
「無限の未来があるってことよ」
「み、未来……?それは、大人にもあると思いますけど」
「んー、確かに、大人にも未来はあるわよ。私だってあと50年くらいは生きるつもりでいるからね。でもねナナちゃん、大人の未来って言うのは有限なのよ」
「ん〜、よくわかりません……」
ナナは頭の中がこんがらがってきたようで、口を尖らせて言う。サムスはなにかナナにも分かりやすく理解できるたとえ話はないかと考えをめぐらし、1つの質問を思いつく。
「……そうだ、ナナちゃんは将来何かなりたいものとかある?」
「あ、うん、う〜ん……私は、やっぱり、あの、ポポ君のお嫁さんかな、なんて……」
ナナは語尾を濁しながら、ほんのりと顔を赤らめていう。普段心の中に秘めている淡い願いを吐露した照れからか、ナナは一つ大きくため息を漏らすと恥ずかしそうに両手を摺り合わせた。サムスはそんな彼女をひじで小突いて冷やかしとも賛同とも取れる言葉を投げかける。
「ふふ、相変わらずお熱いのね。他には?」
「他に……は、登山家かな、やっぱり……あ、でも、ケーキ屋さんもいいな……」
「いっぱいあるのね、いいことだわ。でも大人になると、そういう風にたくさんの夢を見ることもできなくなっちゃうのよ?」
「なんでですか?いくつになっても、夢はもてると思うけど……」」
「う〜ん、まあそれはそうなんだけど……でもね、例えば私が今からケーキ屋さんになるとするでしょ?ケーキ屋さんになるにも一定の学力は必要だからまずは今から教科書でも見ながら勉強しなおさなくちゃならないわ。それはわかるわね?」
「うん」
「それでその勉強が終わったら次は料理の専門学校かなんかに通わなくちゃならないわね。それが終わったらどこかの料理店かなんかで一人前になるまで修行を積まなくちゃ。そういったいろいろな条件をクリアするころには、私はもうおばちゃんよ。たとえもし私が今言ったことを全部できたとしても、それから何年働けるのかわからないわ。それにそのくらいの年になるころには体にもあちこちガタが来ているころでしょうし、開業したはいいけどすぐ病気になって閉店、なんてことも考えられるわ」
「……」
「それに勉強している期間だってご飯は食べていかなくちゃならないんだから、勉強しながら仕事をするってことになるわね。遊びや友達、家族との時間を犠牲にしてまで。私にはそんなことはできないわ」
「そっか、ケーキ屋さんになるのもたいへんなんですね」
「ケーキ屋さんだけじゃないわよ。登山家になるのだって体力づくりや山のことを学んだりするのにたくさん時間を取られでしょうし、お嫁さんになるのだって簡単なことじゃないわ。あなたは相手がいるからいいけど、結婚したくてもできない人だってたくさんいるんだから」
「……」
「大人はそういういろんなリスクとか手間とかを考えちゃうからね、一見何不自由なくできるように見えても、実はすごく縛られてるのよ。今やっている仕事以外の夢なんて、そうそう追えないわ。私は独身だからまだいいけど、家族がいる人ならなおさらね」
「そっか……大人って、疲れるんですね」
「ええ、そうね。でもね、あなたくらいの歳だったらそんなリスクも手間も考えずに自分のやりたいことをやりたいだけすることができるのよ。失敗してもやり直しがきくし、体も健康だし。私にはそれがうらやましいわ。もし戻れるのなら、全財産を支払ってでも戻りたいと思うくらいにね」
「……」
「ま、今のあなたにはピンと来ないかもね。それでもいいわ、私もあなたくらいの歳にはそんな小難しいこと考えてなかったしね。でもこれだけはいっておくわ、子供のうちにやりたいことをやれるだけやっておきなさい、どんだけ失敗して周りの大人に迷惑かけてもいいから」
「うん、わかった、ありがと……、頑張る……ょ」
「あら?」
ナナの頭が前にがこっくりと大きく揺れ、水面に顔が付きそうになる。ナナは慌てて顔を起こすが、すぐにまたふらふらとし始める。サムスはすでに時刻が11時を廻っていたことを思い出す。早寝早起きの模範的な生活をしている彼女にとってはかなり深い時間だ。早めに寝かしつけなくては。サムスは夢の世界に落ちようとしているナナの体を引っ張り上げる。
「眠たくなっちゃったのね。そろそろあがりましょうか」
「あ、はい、ん……」
サムスは重たくなったナナの体を引きずり上げるように、脱衣所へと向かった。



「ナナちゃん、お風呂長いよ〜」
ここは風呂場に至る廊下。ポポは開口一番、女子風呂の暖簾をくぐってきた、長い間自分を待たせた相棒に駆け寄る。口では文句を言いつつも、その表情は明るかった。ナナはそんな相棒の姿も目に入っていない様子で、目を半分閉じたまま答える。
「ん〜……ごめんなさい、気持ちよかったからつい……ん〜……」
ポポにもたれかかるナナ。ポポは慌てて体を支える。
「あ、だめだよ、こんなところで寝ちゃ……あ、サムスさん、何飲んでるの?」
「ん、ビールよ、ビール」
ナナから少し遅れて出てきたサムスを見つけたポポが声をかける。サムスは早くも酔いが回っているようで、頬を赤らめながら上機嫌で答えた。
「ん〜……それっておいしいんですか?」
「え?ええ、まあね」
「じゃあ、私にも一口飲ませてください……」
「ん?」
サムスは少し缶をナナの口元に近づけるようなしぐさをしたが、すぐにそれを引っ込める。
「あ……」
「だーめ、これは大人になるまで待ちなさい、ふふ」
「あ〜、いじわる……」
なんだかんだで、やっぱり早く大人になりたいと思うナナなのであった。

Tweet


スマブラ小説トップに戻る

トップページに戻る