かくれんぼ、じゃれあいっこ


「……」
「……」
僕達が普段住んでいる寮の庭においてある、小さな青いゴミ箱の中に、僕とナナちゃんは今2人で隠れている。
「ち、近いね、ナナちゃん……」
「うん……」
「ごめんね、ナナちゃんが先に入ってたのに……」
「あ、うん、いいの、大丈夫……」
そうだよね、別にいいよね。僕がかくれんぼで隠れようとした場所に、ナナちゃんがたまたま先に隠れていただけなんだから。ほかの場所を探す時間もなかったし、別に全然問題ないよね。うん。僕がナナちゃんの背中に抱きつくようにしているのも、ナナちゃんが背中を向けて先に入っていたんだから仕方ないよね。うん、僕は何も悪くない。悪くないったら悪くない。
「暗いね……怖くない?」
「うん、大丈夫……」
「鬼、こないね」
「そうだね」
「狭いね」
「うん」
「これ終わったら、おやつ食べようね」
「うん」
ナナちゃんが口を開くたびに、僕の胸のどきどきが早くなる。もしかしたら、ナナちゃんにも伝わっちゃってるのかもしれない。ナナちゃんと体をぴったりと寄せ合うことなんか、別に珍しいことでもないのに、なんだか今日はすごく緊張する。やっぱり、周りに人が居ないからなのかな?
「ポポくん……」
「ん?なに?」
「あのね、私、今、このまま、みつからなければいいなって、ちょっと思っちゃった」
「……え?ええっ?」
「ん、だから、このまま誰にも見つからないでずっと二人でいても、いいかなって、私……」
一瞬僕は何を言われたのかわからなくなった。ナナちゃんの言葉をもう一度頭の中で再生して、ナナちゃんの言った言葉の意味を理解して、その意味を考えて……顔がかあっと熱くなった。何を言ってるんだよ、そんなのだめだよ……とっさに声を絞り出そうとしたけど、口がぱくぱくするだけで音が出てこない。胸のどきどきがとめられず、息が苦しくなる。
「え、あ、や、あの……」
「ポポ君、びっくりした?」
「え……あ、う、うん……」
僕が何とか声を絞り出すと、ナナちゃんはくすくすと笑いだした。あ、あれ、僕もしかしてからかわれてる?
「ふ、ふふ……」
「あ、ナナちゃん、ひどいや、こんなときにそんな事突然いわれたら、どきどきしちゃうじゃないか……」
「ポポ君がいつも私をどきどきさせることするから、仕返しだよ」
ああ、やっぱり。きっと今の顔は、真っ赤になっているだろう。顔の周りが熱を出したときみたいに熱くなっているのがわかる。たまらなく恥ずかしくなった僕は、かくれんぼの最中であることも忘れて大きな声を出す。
「もーっ、人をからかうような悪い子にはこうだ!」
恥ずかしいのをごまかすため、僕は後ろからつめを立ててナナちゃんのわき腹をくすぐる。くすくす笑っていたナナちゃんは、とたんに体をびくりと震わせて、さっきとは違う甲高い笑い声をあげた。ここが一番弱いこと、僕知ってるんだ。
「あ、や、ひゃ、い、ひゃあ!やめて、くすぐったい!」
「だーめ、やめない」
「や、やぁだ…あ、んっ、ごめんなさい、もうしないからぁ……」
途切れ途切れに声を出すナナちゃんは身をよじって遠慮がちに両手をじたばたさせて、なんとか僕の手から逃れようとする。でも、この狭いゴミ箱の中でそんなことはできない。
それに、そんないじましいことをされると、かえっていじめたくなっちゃう。一番大好きで大事な子なのにいじめたくなっちゃうって、どうしてなんだろう?
「だーめ、あとちょっと我慢するんだよ」
少しずつくすぐる位置を上や下に動かしたり、力を入れたり抜いたりしてくすぐり続ける。ナナちゃんの体から少しずつ力が抜けて行くみたいで、僕に体を預けてきた。
「あ、んっ、ごめんなさい、もうしません、許してぇ……お願い、ねえっ」
「だーめ」
「や、無理、お願い、ねえ……っ、やっ……!」
ナナちゃんは何とか逃れようとして、体を前に思いっきりそらす。ナナちゃんの胸がゴミ箱の中の壁にぶつかり、ゴミ箱が大きくぐらついた。
「あっ……」
「うわっ!」
とっさにナナちゃんのお腹を後ろから引っ張ってバランスをとろうとしたけど、だめだった。ナナちゃんはお腹から地面にたたきつけられた。その上に僕の体が重なる。
「いたっ!」
「あ、ご、ごめん、大丈夫?」
「うう、はあ、くすぐったかった……」
僕の下にいるナナちゃんが、苦しそうに声を出す。ちょっと悪ふざけがすぎたかな……
「ご、ごめん!僕、外出るから」
僕は外に出なきゃと思い、頭の上のゴミ箱のふたに手を伸ばす。けど、その寸前で誰かが先にふたを上げた。
「みーつけた!」
してやったりといった顔のネス君が、こちらを覗いている。あ、そうだ、僕たち、かくれんぼしてたんだっけ……僕がぼんやりそんなことを考えていると、ネス君はぎょっと目をひん剥いた。
「うわっ!なに、その格好!?」
そういわれて僕はそっと目線を下に落とす。ナナちゃんが僕の体の下でうなっている。
「あ、いや、これは、あの!な、なんでもない!偶然だから、偶然こうなっちゃっただけだから!そうだよね、ナナちゃん!一緒に隠れてただけだよね!?」
「あ、うん……」
自分でも動揺しているのがわかるほど、早口でまくし立てる。あー、だめだ。完全に僕達が変なことしていてるって思われる!
「へー、ま、いいや。はい、ポポ、ナナちゃん、つーかまえた!」
「えっ」
「あ……」
タッチをされて思い出す。あ、そうだ、僕たち、かくれんぼしてたんだった!
「はい、二人とも確保ー!っというわけで、おとなしくここで待っててね」
「あ、うん」
僕ら二人を置いて、ネス君はそういってどっかに消えていった。僕はお腹の下に居るナナちゃんに、もう一度見てみる。
「ナナちゃん、……」
「あ、あの、苦しいよ……」
「え、あ、ごめん……いま、出るよ」
僕はナナちゃんの頭を踏んだりしないように気をつけながら、外に腹ばいで出て、ナナちゃんにも手を伸ばして立たせる。
「ありがと……」
「いーえ、どういたしまして」
「あーあ、いっぱいついちゃった……」
僕が地面から出る際にお腹についた草をとっていると、ナナちゃんが「あ、あのね……」と後ろから声を掛けてきた。僕は視線を落としたまま「なーに?」と返事を返す。少し声が震えてたけど、僕がずっと乗っててくるしかったのかな?そう思って後ろを見ようとした瞬間、僕のわきの下に変なものが当たった。
後ろを振り向くと、それはナナちゃんの手だということがわかった。
「な、なに?」
「お返し」
「え?」
僕が聞き返すと同時に、ナナちゃんが僕のわきの下で手をもぞもぞと動かし始めた。あ、まずい、僕がこれに弱いってことも、ナナちゃんに知られてるんだっけ……って、そんなこと考えている場合じゃ……
「あ、あの、だめ!やめて、そこはだめ!」
「やだ」
「あ、ん、あぁっ……」
さっきナナちゃんが出していた声と、似たような声が自然に出てくる。自然と涙があふれてきて、すごく恥ずかしい気分になった。
「ご、ごめん、さっきのこと謝るから、許して、お願いっ……」
「んー、どうしよっかな」
「おねがい、僕、もう無理……」
「んー、じゃあいいよ」
力を緩めてくれたナナちゃんの手から逃れると同時に、僕は思わずしゃがみこんでしまった。体全体になんともいえないむずがゆい感じがする。うう、恥ずかしい……
「ナナちゃん、ひどいや……」
「え?ポポ君がやったことと、おんなじことをしただけだよ?」
そういわれると何も言い返せない。熱くなった頭を落ち着かせようと、息をハアハアと整える。
「あ、はあ、ふう、ふう……っ」
「ごめん、ちょっとやりすぎたかも……」
「あ、ううん、最初にやったの僕だし……なんか、ごめんね、つい、いじめたくなって……」
「ううん、いいよ、気にしなくて。気分がよくなったのなら、おやつにしよ?」
ナナちゃんがそう言って僕の隣で右手を差し出す。うーん、なんか今日はいいようにナナちゃんに遊ばれちゃった感じがするなあ。
「どしたの?」
「んー、別に?」
……でも、こんなのもたまにはいいかな。
僕は差し出された手をとって、彼女の少し後ろを歩き出した。いつか「お返しのお返し」をしてあげようと、頭の隅で考えながら。

Tweet


スマブラ小説トップに戻る

トップページに戻る