自分に勝った男


「ナナ、ただいま〜!」
日も傾きかけた冬の日の午後。買い物から帰って来たポポは自室で待っているであろう相棒の元に、鼻歌交じりに帰って来た。しかし、ポポの予想に反して扉の奥の西日が深く差し込む部屋の中には人っ子一人おらず、変わりにつけっぱなしになっていたテレビが彼を出迎えた。
「あれ、ナナー?なんだ、いないのか、ダメだなあ、テレビつけっぱなしのまま出かけるなんて……」
ポポは買い物袋を無造作に投げ出し、安物の座布団に腰かける。テレビでは気難しそうな男が政権交代だの財政再建だのと騒いでいるが、ポポの興味のある話題ではない。あまりに話がつまらないのでチャンネルを変えてみたが、どの番組も似たような内容だったので、ポポはがっかりして電源を切った。
「あ〜あ、つまんないの。ナナ早く帰ってこないかな〜」
ポポは部屋の隅の机を見るともなく眺める。何か見慣れないものが目に入る。近づいてみてみると、それはピンクの日記帳だった。この部屋を使うのは自分とナナしかおらず、しかも自分のものではないのだからこれは間違いなくナナのだと推測する。中を見られたくないのか鍵が付いているが、手にとって触ってみると簡単に中身がめくれた。鍵を閉め忘れているのだ。なんとなく日記を手に取ったポポの心の中で、小悪魔がささやく。
「ねねねね、中見ちゃおうよ。大丈夫大丈夫、誰も見てないよ。ナナの考えていること知りたいでしょ?ほら、見ちゃいなよ」
そこまで考えてポポは頭を振る。いけないいけない、これはナナが誰にも見られたくなくて鍵をかけている日記帳だ。たまたま鍵を閉め忘れたからってその中を覗くのはよくない。ポポは自分の考えに納得する。
「いやいや、大丈夫だって。大体さ、今ここで君が日記を覗いたところで誰が損するの?誰もしないでしょ?だったらみたっていいでしょー」
そうか、確かにその通りだ。誰も損しないのだから別に見たっていい。いやいや、そんなことはない。ナナはこの日記を見られることを拒んでいるに違いない。いや、本当にそうか?それは勝手な思い込みではないか?いやいや、普通に考えて日記を読まれたがる人間なんていやしない。常識で考えればわかる。でも常識って何だ?
ポポの頭でさまざまな考えが交錯し、頭の中がぐちゃぐちゃになる。ポポは日記を一瞬手にとったが、最後の良心でそれを机に戻す。ポポは自分の中の悪魔に屈しなかったのだ。ポポはひとつ肩で息をする。あまりに興奮していたので、ポポは後ろに迫る影にも気がつかなかった。
「あ、ポポ君、帰ってたの?」
「え、あ、ああ、ナナちゃん、いたんだ……どこいってたの?」
「え、トイレだけど……それよりポポ君、すごい汗かいてるよ?どしたの?」
「え?」
ポポは手のひらで自分の頬を触る。なるほどナナの言うとおり、凍えるほど季節には不自然なほど汗ばんでいる。
「え、あ、これはね……うんと、あの、戦ってたんだよ」
「え、なにと?」
「自分自身の中に住む悪魔と!僕は自分自身に勝ったんだよ、偉いでしょ」
「……え?……あ、うん、よくわかんないけど……」
「えっへん!」
事態が飲み込めないナナを尻目にふんぞり返るポポ。ナナはそれにあいまいに笑顔を返す。ナナはふと机の上を見る。
「あ、日記、置きっぱなしにしちゃってた……」
そう、自分はあの日記に、いや、自分の中に住む悪魔に屈しなかったのだ。たとえ親友だろうと恋人だろうと、知るべきではない部分がある。そのことをおぼろげながら理解していたポポは、心地よい自尊心を感じていた。ナナはそんなポポを不思議そうにみつめてから、日記に鍵をした。誰にも知られることのない戦いに打ち勝ったポポは、自分が1つ成長したと感じながら、満足して部屋を出て行くのだった。

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