夢の中へ


時計のコチコチという規則的な針の音が、なぜだか今日はいつもより気にかかる。
「……はあぁ……」
私は布団の中で足をじたばたさせながら、天井を見上げていた。仰向けに寝ていた体を180度回転させて、薄く光る時計の表示板を見つめた。いつもまにか、日付はもう変わっていた。
どうして眠れないんだろう。今日もいっぱい遊んで、お料理やお洗濯もして、すっごく疲れてるはずなのに……。頭の中が、もやもやしたものでいっぱいになる。

「……ん……」

ふと、声をかけられたような気がして隣の布団をのぞくと、ポポ君はすうすうと穏やかな寝息を立てて眠っていた。
「……はぁ……」
ぼうっと天井を見つめる。このまま眠れなかったら、私、どうなっちゃうのかな、もしかして、変な病気なのかな?
そんなことはあるわけないのに、ついつい思考が暗いほうへ暗いほうへと流れていっちゃう。もし、そうだったら、怖いよ、ポポ君…
「…………くすん」



「どしたの?」
「わっ!」
突然声をかけられて、私は思わず体をびくんとさせた。いつの間にか起きていたポポ君は、眠そうに目をこすっている。
「あっ、お、起きてたの?」
「んー、なんかいきなり目が覚めちゃって、ナナちゃんこそ何してるの?」
ぼんやりと見えるポポ君の顔は少し不安げだ。ど、どうしよう、こんなしょげた顔見られたら、またポポ君に余計な心配させちゃう……そう思った私はお布団に頭をうずめた。
「ナナちゃーん?どしたのー?」
ポポ君は私のおかしな行動を怪しく思ったのか、電気をつけると力任せに私のお布団を引きはがした。私はまぶしさに顔をゆがめた。

「そぉれ!」
「わぁっ!」

ポポ君と目が合った。ポポ君は困ったように笑っていた。
「どしたのー?」
「な、なんでもないよっ!」
ポポ君に感づかれないように、ぎゅうっと顔を手で覆う。
「なんでもないことないでしょー?あ、さては、眠れないの?」
「!!」
心を読まれたような気がして、私は胸を押さえた。どきどきが早くなっているのが、防寒着越しに伝わってきた。
「眠れないんでしょ?隠さなくてもいいよ?」
ポポ君はずいっと身を乗り出して、私の顔を覗き込んでくる。顔がかぁっと熱くなるのが、自分でも分かった。どうして、いつも私の嘘はすぐにばれちゃうんだろう?


「寝れないんだね?」
「うん……」
「そっかあ……困っちゃったねー」
「うん……」
「そういえば、さっき僕がどうしたのって聞いたのに隠れようとしたの?」
「それは、その、あの……ポポ君にまた心配かけちゃうんじゃないかなって思って……」
「あ、そう」
ポポ君はそれだけいうと、、下を向いてしまった。私が嘘ついたから、怒ってるのかな……
「……ごめんなさい」
「ナナちゃん……ちょっといいかな?」
「えっ?」
答え終わると同時に、私の体はポポ君のお布団に引っ張りこまれた。
何をされたのかとっさに理解できなくて、目を白黒とさせている私の体を、ポポ君はぎゅっと抱きしめた。……な、なんで?

「んっ……」
「……」
「あ、あの、ちょっと……」
「なあに?苦しい?」
「ううん、そうじゃないけど、ちょっと恥ずかしいよ……」
「いいじゃん、誰も見てないんだしさ」
「で、でも……」
「ねえ、ナナちゃん、僕が何でいつもぐっすり眠れるか知ってる?」
私がまだポポ君は抱きついた状態のまま、いきなりクイズを出してきた。なんだろう、これ?あ、ひょっとして、私のことからかってるのかな…………
「う、う、うーんと…………ごめん、わかんない」
「それはねえ、ナナちゃんがいつも近くにいてくれるからなんだ」
「……え?」
何言ってるんだろう、頭がついていかないよ……
「実を言うと、僕、ちょっと恥ずかしいんだけど一人じゃ寂しくてなかなか眠れないくて……けど、ナナちゃんが近くにいてくれると、なんだかそれだけで安心できて、いつもぐっすり眠れるんだ……いつも、ありがと」
「そ、そうなんだ……よかった」
ポポ君は顔をぽっと赤らめながら言っていた。私の顔も、多分おんなじくらい真っ赤になっていたと思う。だって、ポポ君が、そんな風に思ってくれているだなんて、思わなかったから……


「…………」
「…………」
私たちはしばらく無言で抱き合っていた。私はポポ君の顔が見たかったのに、ポポ君はちょっとうつむいていた。あ、あれ、なんか私まずいこと言っちゃったのかな……?
「どうかしたの?」
「うん、だから、さっきも言ったとおり、あのね、ナナちゃんが僕みたいにちゃんと安心して眠れないのは、隣にいる僕が頼りないからだと思うんだ……ごめんね」
「ううん、そんなことないよ?」
「ごめん……」
ポポ君はなんだか泣いているようにも見えた。なんか、変な感じだな……いつもは、私が泣いてばっかりで、そのたびにポポ君に励まされてるのに……、そうだ、私もたまにはお姉さんみたいなこと、してみちゃおっかな。
「ポポ君」
「なぁに?」
「私は、その、今のポポ君も、かっこいいと思うよ……だから、そんな顔しないでいいよ?ね?」
「ありがとう……でも、僕、きっと、いつか、隣にいるだけで安心できるくらい強い男になるから、応援してね」
「ありがと、がんばってね」
「うん、頑張るよ」
ポポ君はそういうと、顔を上げてにかっといつもの笑顔を見せてくれた。いつもより近くで見るポポ君の顔は、いつもよりもさらに眩しかった。やっぱりポポ君には、こっちの顔が良く似合う。
「えへへー」
ポポ君はにこにこただと私の顔を見ている。もう、こんなに近くで見るのは初めてだって言うくらいに、距離が近くで。
そう、もう、ほんのちょっと顔を近づけたら、その、き、キスしちゃいそうなくらい近くで……
「どうしたの?」
「え?あ、な、なんでもないよ」
「あー、そう……なんか、変な事考えてなかった?」
「……えっ?」
ど、どうしよう、ばれちゃったよ、また、さっきみたいに顔がかぁっと熱く……あ、私の嘘がばれちゃうのって、これのせいかなあ……
「どしたの?やっぱり何か考えてたでしょ?」
「あ、うん、実は、あの、その……なんか、顔が近いなって……」
「え?あ、そういやそうだね、もうちょっと近づいたらちゅーしちゃいそうだねぇ……」
「う、うん」
「する?」


……
……
ええっ!?そ、そんな、や、だって、その、私たちは、子供だから、あわわわわわ……
「なーんてね、冗談だよ、びっくりした?」
「う、うん、やめてよ……」
あ、あれ?お姉さんみたいに振舞うつもりだったのに、なんだか知らないうちに、いつもまにか気がつけばポポ君に振り回されちゃっている。どうしてなのかなあ。
「あはは、ごめんごめん」
ポポ君はそう言って、私の腰から左手を離すと、私の頭を優しく撫でてくれた。ちょっとくすぐったかったけど、でも気持ちよかった。
「さあ、そろそろもう一度寝ようか」
ポポ君はそういって電気のリモコンに手をかけた。なんだか急に、体がすっと寒くなったような気がした。あ、まだ、もうちょっとこうしていたかったんだけど……どうしよう、そんなこといったら嫌がられるかな?でも……今はもうちょっとだけ、こうして……
「あ、あのー……」
「ん?」
「なーに?どしたの?」
「ん、その、ちょっと、その、もうちょっとだけ、こうやっていたいんだけど……だめ?」
「え……?」
ポポ君は、一瞬目をきょとんとさせた後、くすくすと笑い始めた。なんだか急に恥ずかしくなって、私はポポ君に背中を向けた。
「あ、あれ?」
「そんなに笑わなくてもいいじゃない……結構恥ずかしかったんだよ?」
「ごめんごめん、こっちに来ていいから、機嫌直してよー」
ポポ君は私の肩に手を取った。
「いいの?」
「うん、実は僕もちょっとそうしたかったんだ……えへへ」
いろいろからかわれたけど、結局いつもポポ君はこうやって私が一番喜ぶ返事をしてくれる。……ありがとう。
「どうしたのー?」
「ううん、なんでもないよ、ありがとう」
「ん、おやすみー」
「おやすみなさい」
私はポポ君の胸の中に身を預けた。身長も体重も全く同じはずのポポ君の体は、なぜだかとても大きく感じられた。ずーっと、こうしていられたら、いいのに……。そんな決して叶うことのないを考えながら目を閉じているうちに、私はいつのまにか眠りに落ちていった。

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