田舎の事件/倉阪鬼一郎

倉阪鬼一郎さんの短編集です。

学校の事件と同じく、舞台は架空の田舎です。事件とは銘打っているものの、その内容は実に貧相かつ滑稽なものばかりです。いわゆる「本格ミステリー」を期待すると肩透かしを食らうことになります。

・東大に合格したと何気なく嘘をついたらそれが周囲に知れ渡り引っ込みがつかなくなった村一番の秀才の若者
・そばの味にこだわるあまり「水で食べる蕎麦」を開発しそばつゆに対して異常な敵対心を抱くようになった男
・会員が一人しかいない弱小愛国団体の、口だけは威勢がいいが行動がまるで伴わないトップ

など偏執的・内向的で見栄っ張り、それでいてはたから見ればかなりマヌケな人物たちが織り成す物語は、恐ろしくもありおかしくもあります。

ほとんどの作品に共通して言えるのは、田舎の人間の特徴である「閉鎖的な空間で育ったゆえの視野の狭さ、見栄っ張りさ」をものすごくデフォルメして書いてあるところです。閉鎖空間で凄い凄いとおだてられ、都会で一旗揚げてやろうと目論んだもののあえなく壁にぶつかり挫折、それを乗り越える強さもなく田舎に舞い戻るが、なまじ都会に慣れたために田舎の人間の愚鈍さに精神を病んで行く……というのが大体の流れです(そうでない作品もありますが)。

こんな狂い方する人間がいるわけねえだろ、と頭の中では理解できてもどことなく主人公の心の動きに共感してしまうあたりはさすがですね。人間はいかにして嘘をつくのか、そしてそれを隠すために嘘の上塗りをするのか……そんな心の動きを学べる一冊かも知れません。

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