不可解な事件/倉坂鬼一郎

倉阪鬼一郎氏の短編集です。学校の事件と同じく架空の否かを舞台にしていますが、作品同士に接点はありません。



氏の作品らしく明るくまっとうな人生を歩んでいる主人公は一人も登場しません。各話の主人公は以下の通りです。



第1話「切断」……パソコンばっかやってるヒキニート
第2話「招き猫の切断」……会社で閑職に回されたインポ男
第3話「密室の蠅」……狂気に飲み込まれた売れない作家
第4話「一本道の殺意」……変な宗教にはまった妻に死んでほしいと思っている男
第5話「赤い斜線」……結婚式にだれを呼ぶかでもめる男女
第6話「街角の殺人者」……バイトを転々とする非モテ男
第7話「湖畔にて」……精神を病んで田舎で療養中の思想家



こうして並べてみるとまあ気がめいるような連中ばかりですが、実際に読んで見ると不思議とおかしみを感じます。

第1話「切断」

主人公は三十路のヒキニート。農家の両親から出ていくか自衛隊で根性を鍛えなおすかと迫られる……。

現代日本ではありがちな話ですが、この作品は平成12年出版。それほどネットも一般的でなかった時代にこの作品が書けるのはさすがです。リアルでは針の筵、ネットでは大威張りだった主人公がふとしたきっかけでネットその居場所までも奪われ、孤立してついに○○をしてしまうまでの経路に恐ろしさを感じます。

第2話「招き猫の切断」

社長の娘と結婚、逆玉で出世したもののインポがばれて離婚、閑職に追いやられた男の悲哀を描いたストーリー。徐々に追い詰められていき完全犯罪とは到底言えないような(しかし本人は完ぺきと思っている)トリックで元妻を殺そうとする男だが……。

本人は大まじめでもはたから見れば滑稽に見えるという、そんなお話です。

第3話「密室の蠅」

あるド田舎の青年議会所に講演を依頼された異端のミステリー作家。普段陰気な彼は以外にもこの依頼を受けるが、講演で話す内容が一向に定まらずにどんどん追い詰められていき、思考が空転していく……

狂人の狂人たるゆえんが細かく描写された力作です。青年会議所の人間の極めて利己的な振る舞いがリアル。

第4話「一本道の殺意」

変な宗教「天狗教」にはまった妻を疎ましく思った男が、彼女を合法的に消し去るためにある方法を思いつく……

一見本格ミステリっぽい作品ですが、トリック自体は結構間抜けです。間抜けなのですがまったくありえない話ともいえず、またこのトリックを実際に成功させることが出来ればまず警察には疑われないのは紛れもない事実。絶妙なバランス感覚で、主人公は強引に完全犯罪(?)を成功させます。

第5話「赤い斜線」

結婚式にだれを呼び誰を呼ばないかでもめる、田舎の男女のストーリー。話はもつれにもつれ、罵倒の嵐に。やがて男は……。

会話形式の作品です。本書の中で一番読みやすいですが、落ちは予想できる範囲です。

第6話「街角の殺人者」

地域でも評判の美人、そして誰とでも寝るという噂の女。田舎の純朴少年はついに彼女と性向に及ぶが、前日のマスターベーション過多で物は立たずに赤っ恥をかく。やがて女は美貌を生かして芸能人となり上京、少年はそのあとを追いかけるが……。

文句なく本書の最高傑作。もてない男の内面の葛藤をこれでもかといわんばかりに描き切っています。いろいろと考えつつも結局は劣情に走ってしまう主人公が非常に憐れでよろしい。

第7話「湖畔にて」

田舎で療養中の男と、その田舎でかつて栄えた邪教・黒猫教。黒猫教の復活を恐れる人々は、男が黒猫教の関係者ではないかと訝しむ。

氏の作品にしては珍しくちょっとはかなく寂しい作品。田舎特有の偏屈なものの見方の描写が秀逸です。

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